すばらしいカセットテープ
「すばらしいカセットテープ」
「とにかくなんか聴いてみよか?」と、ひとりの女の人が言い出した。
「せやね」と、声をそろえてその他大勢が答えた。
ひとりの女の人が、ラジカセにテープを入れて、スイッチを押した。
女の人たちは、しばらくラジカセからに流れてくる音に耳を傾けていた。
「素晴らしい!!」と、ひとりの女の人が感嘆の声をもらした。
「ほんまや!!」と、声をそろえてその他大勢も感嘆の声を上げた。
「こんな素晴らしいカセットを持っている人
はいったいどんな人なんやろう。ああ、お目にかかりたいわ」
「ほんまほんま、わたしもわたしも」
「わたしもわたしも」
口ぐちにつぶやきながら、
女の人たちは、涙を流し、全身を震わせて感動していた。
しかし、実は、私には何も聴こえてこなかった。
女の人たちをそれほどまでに感動させたサウンドを私も聴いてみたかった。
なのに、私には、何も聴こえなかったのだった。
聞こえてくるのは、ただただ、女の人たちの感嘆の声だけ。
私は女の人たちの感動についていけなかった。かといって、一人しらけた顔をしているのも気が引けたので、せいいっぱい感動しているふりをして、その場の空気に溶け込もうとした。
空気になじめず疎外されるくらいなら、感動するフリなんて、どうってことない、たやすいことだ。
なんて思いながら、女の人たちに合わせて、女の人たちにフリを気づかれないように、必死で、限りなくナチュラルな演技でもって、感動するフリをしていたのだった。
あほみたいだった。
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